久しぶりに読書感想文でも。
アダム・ペネンバーグ 中山 宥
ソーシャルメディア、SNS好きなら読んで楽しめる本。特にバイラルな効果ってtwitterをそれなりに使っている人なら実感沸くんじゃないかな。特に昨年の大震災のときにも体験できたからね。
本書はこの10年におけるネットビジネスの発展を理解するにも最適だし、今後どう発展していくのかの見通しをつけるにも最適な一冊だと思う。
でも最後の第12章「広告の新たなスタイル」というところは、少々物足りなかったかな。真新しさとかもっと未来へ向けた提案とか予測とかそういう視点があったらよかったかも。
もっともここは今まさにホットな話題、あのfacebookだって模索している最中だから仕方ないともいえるが…。
なんかまた感じてしまった閉塞感
それにしても読んでいていろいろがっかりする場面も結構あった。いやそっちの気持ちのほうがむしろ強いかもしれない。
でも内容自体ではなくて。むしろ内容はとってもいいのでほとんど不満はないくらいだ。
それは日本でのビジネススタイル、いや漠然すぎるか、結局のところは「自社製品の著作権」とか「自社のブランド戦略」に対する意識に対してというべきか。
たとえば、本書からの引用、
国際宅配便のフェデックスにいたっては、バイラル・マーケティングの芽を自ら摘みとっている。ある顧客が、同社の梱包用の段ボール箱で家具をつくり、自分のウェブサイトに写真を掲載したところ、「商標を侵害している」との警告文を送りつけて、告訴を匂わせたのだ。
(バイラルループ第6章より)
これは、いわゆるソーシャルメディア全盛の時代、ネットはもちろんのこと今後のあらゆるビジネスにおいて重要な、おっと重要とは言いすぎかな、とりあえず把握しておいたほうが良いと思われるバイラル・マーケティングの影響力をまるで理解していない「ダメ」な例として取り上げているのだけれど、考えてみればほとんどの日本の企業ってこんなスタンスのような気がする。
確かに西海岸の発想はオープンすぎるので、いくら外資系企業であっても違和感があるかもしれないが、それでもこうした特有の爆発的な広がりのメカニズムとその重要性をきちんと理解はしている会社や経営者はいるわけだ。
しかしそれにしてもそういう企業が日本ではあまりにも少ないんじゃないかな。
これって本当に単なる文化の違いで片付けられることなのだろうか。
メントスのヒーリー副社長は、こうコメントした。
もし私がフェデックス社の立場だったら、すかさずネット上で、”フェデックスの段ボール箱でダイニングセットをつくろう”コンテストを開催するでしょうね。
(バイラルループ第6章より)
どうしてこういう発想があまり出てこないのだろうか。
ITネット関連企業が時価総額上位を占める時代だからこそ
「SNSって一体何が楽しいの?」とかいう人が未だにいる。
まあ楽しいかどうかは正直どうでもいい。なぜなら単なる個人的趣向だから。
しかし、ビジネスマンであれば少々話は違ってくる。
今のネット広告ビジネスがどういう方向性に向かっているのか、知らないより知っておいたほうがいいに決まっている。
例えば今年のIPOで世界的に注目されているfacebook。どうして(ほんとにそうなるかはともかく)1,000億ドル近くの価値があるといった観測記事がでるのか、世のオジサマたちは理解できるのであろうか。
【レポート】FacebookのIPO申請書類で明らかになったリスク・課題とは? | 経営 | マイナビニュース http://news.mynavi.jp/articles/2012/02/10/facebook/index.html
焦点:モバイル広告市場狙うフェイスブック、他社の追随は困難 | Reuters http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE82402X20120305
少なくとも、友人増やして「いいね!」を押してニュースフィードの威力を体感しないと、facebookの凄さ、彼らがどれだけ先のことを考えているのか、理解はできなくても想像すらすることができないんじゃないかな。
こんなことをいうと、「別にネット関連企業だけがビジネスじゃないし」って反論があるかもしれない。
たしかにそれはそれで正しい。
しかし、いまや世界で一番大きい時価総額(2012/3/6時点)の企業はApple(4,971億ドル)だし、Microsoft(2,668億ドル)やGoogle(1,990億ドル)も米国市場でトップ30には余裕で入る規模の会社だ。あのAmazon(820億ドル)だっていまやかなりの規模だ。
だから、少なくとも今の経済全体の動向を語る上ではこうしたIT関連、ネット関連企業の動向って欠かせないはず。
というわけで、ビジネス、特に経済金融に携わっている人は基礎知識として知らないよりも知っておいたほうがいいに決まっている。
ゲーム音楽(業界)のことも気になった
ところで、本書を読んでいてちょっとまた別のことも気になった。ちょっと脱線気味だが、それは「ゲーム音楽のこと」。
いろいろ立場的な問題もあってあまりこのような公開している日記で書くと問題あるかもしれないけれどあえて書いてみる。
僕は趣味でオケをやっているが、最近はクラシックよりもゲーム音楽を自分たちで演奏するという団体を中心に活動している。
特にとあるオケは、もう創立して10年以上が経過しており、演奏会や小演奏会等含めると10回以上も開催しているのでその業界にしては経験豊富といっても過言ではない。
アレンジ技術も演奏技術もアマチュアながら相当レベルアップしてきている。たしかに演奏レベルはアマチュアなので限界はあるしプロには到底及ばないけれど、演奏者の情熱、アレンジの質、顧客の満足度は非常に高いと自負している。
我々のコンテンツは他にはない価値がある。だからいろいろな形で求めている人が多いのも事実。実際に演奏会のチケットは発売開始後瞬く間に売り切れてしまう。
それでも我々は「Live」で聴かせることしか許されていない。録音や動画をネットで公開したりすることは、メーカーの著作権上あるいはブランド対策上なのだろうか、原則、禁止されているケースが殆どだ。
というわけで再び、
国際宅配便のフェデックスにいたっては、バイラル・マーケティングの芽を自ら摘みとっている。ある顧客が、同社の梱包用の段ボール箱で家具をつくり、自分のウェブサイトに写真を掲載したところ、「商標を侵害している」との警告文を送りつけて、告訴を匂わせたのだ。
(バイラルループ第6章より)
というエピソードが思い起こされるわけだ。いやむしろ、読書の流れ的には、このエピソードを読んでゲーム音楽のことを思い起こされたといったほうが正しい。
もっともこれはメーカー側だけの問題ではないかもしれない。当然ながら「著作権法」そのものに関連した理由があるのかもしれないから。
でもどう考えたって、再度引用で恐縮だが、
メントスのヒーリー副社長は、こうコメントした。
もし私がフェデックス社の立場だったら、すかさずネット上で、”フェデックスの段ボール箱でダイニングセットをつくろう”コンテストを開催するでしょうね。
(バイラルループ第6章より)
こういった発想とは程遠いとしか思えないことにはかわりなく、なんだか時代の流れをわかってないなって気持ちがとても強くなる。
まとめ
最近のソーシャルメディアの威力、ネット関連ビジネスの流れを理解する上では非常に最適な本でありとても勉強なったので大変オススメの一冊。
ただ一方で、読みながら、ずっと日々仕事や生活をしながら日本の企業にこうした発想がみられないのは残念だという気持ちが強かった。
やっぱりいつもどおりこういった話題で閉塞感を感じてしまった本でもあった。
P.S やっぱり紙の本ってマーカーがしにくい
ところで、上で利用させていただいた引用などまさにそうだったんだけど、気になった箇所にマークするときって本当に紙の本はやりづらい。
また、引用文などもわざわざ入力しないといけない。
最近電子書籍を利用することが多かったのでとくに不便だなって思った。
こうした本が気軽に電子書籍で読める時代っていつになったら来るのかな?特にこの本は内容が内容だけに、できれば電子書籍で読みたかったかも。